商標を登録するため調査の費用を安くする(無料にする)方法はありますか?
・できるだけ商標を登録するための調査の費用を安くしたい。
・でも商標が登録できなくなるのは避けたい。
・調査に係る手間も減らしたい。
こんなお困りをお持ちの方に、この記事では、商標登録の調査費用を削減しながら、リスクを最小限にするための効果的な方法を解説します。
はじめに
商標登録の重要性と商標調査の役割
商標は企業や商品のブランドを保護するための大切な資産。ビジネスで築き上げてきたブランドの信頼性や品質を、商標として法的に守ることで、他社に模倣されることなく、独自の価値を確立できます。
この商標を登録するための最初のステップが「商標調査」。既に登録されている商標との重複を避け、無駄な出費をしないために、商標調査が不可欠です。
調査費用の削減の損益分岐点
企業の経営上、商標の調査にかかる費用は、コスト削減の対象の一つとして当然考えられるテーマです。
しかし、調査費用の削減と品質の確保は、一般的には相反するものと考えられます。
仮に専門知識を持たない担当者が商標の調査を行う場合、商標調査に漏れがあることもありえます。この場合、特許庁で商標登録ができないことや、他社の商標権を侵害してしまうことなど、結果的にコスト増になります。
この記事の概要
この記事では、商標調査の費用をいかに削減するか、いかに調査の品質を維持するかを、実務経験のある弁理士の立場から解説いたします。費用削減のメリットだけでなく、それに伴うリスクや注意点についても詳しく説明します。
商標調査は、商標を登録するための最初で且つ一番重要なステップです。調査の品質を確保するには専門家の判断が介在することが不可欠であるため、品質と費用はある程度、比例関係にあると言えます。
調査コスト削減を考えるのは自然なことですが、トータルのコストが増大するリスクがあることも十分に理解して、自分(自社)にとり適切な選択をしていただくことがこの記事の目的です。
商標登録までの費用
調査の費用
特許庁に商標を出願する前に、特許庁に既に登録されている商標と重複していないか調査することが目的です。この調査は同時に、商標を事業で使用した際に他社の商標権を侵害しないかを確認する工程ともなります。
この調査費用は、調査の範囲や調査の方法によって大きく変動します。例えば、社内で公的な検索システムを使えば無料ですし、大手の弁理士事務所に依頼すれば一般に高くなります。
出願の費用
商標の出願には、特許庁に支払う出願料金と、弁理士事務所に依頼する場合の手数料が必要です。特許庁に支払う出願料金は、出願時に指定する商品・サービスの区分(全部で45区分)の数に比例します。
弁理士事務所の手数料は各事務所が独自に設定していますが、概ね数万円~数十万円が発生します。一般に区分の数に応じて増額するケースが多いと言えます。
登録の費用
出願後、特許庁の審査を通過すると、特許庁に登録料を支払う必要があります。この登録料は区分の数に比例します。
この登録料を支払えば10年間登録が維持されます。この10年間の間に次の10年間の登録料を納付して登録を延長でき、これを繰り返すことで登録を永続できます。なお、5年間ずつ登録を維持することも可能です。
弁理士事務所に登録料の納付手続を依頼する場合、手数料(一般に数千円~1万円程度)がかかります。
また、成功報酬が必要なことが多いです。金額は事務所により様々といえます。
商標調査の重要性
先行登録商標の調査の必要性
自分(自社)の商標を使用する商品・サービスについて、特許庁で先に登録されている先行登録商標が無いか調査することがとても重要です。先行登録商標と同じ商標はもちろん、それに似た商標も特許庁の審査で登録が認められないからです。商標調査が十分でない場合、特許庁に商標出願しても商標を登録できません。
また、先行登録商標は既に他社が権利をとっている状況なのです。もし自社が商標を使用すると他社の商標権を侵害するリスクも生じ、訴訟などの法的トラブルが発生する可能性があります。
調査の品質とコストの関係
商標の調査には、商標の検索システム(データベース)や商標の専門的な知識・経験が必要となります。
高品質な調査では、多角的な検索を行って、先行登録商標との類似性の検討を十分に行います。また、クライアントに調査報告書を提出します。これは、商標の知識・経験を持つ専門家をしっかり介在させるための費用が伴います。
逆にいうと、安価な調査は、専門家が十分に介在しない・できないために、簡易な機械検索や表面的な検討にとどまることも多く、商標出願しても商標を登録できないというリスクが生じます。
費用削減とリスク・リターンのバランス
調査コスト削減による効果と、その際に生じるリスクも正確に評価することが必要です。
安価な調査を選択することで、短期的にコスト削減できるかもしれません。しかし、その結果として生じうる長期的なリスクや損失を十分に検討することが大切です。
先行登録商標の存在を見逃すことによって、商標調査・商標出願のやり直し、商標を用いた広告宣伝の変更、更には訴訟などの法的トラブルへの対応が発生することもあります。
経営上の長期視点に立つ場合には、コストとリスク・リターンのバランスを考慮しながら、適切な調査予算を確保することが望ましいでしょう。
費用削減の選択肢
自分(自社)で調査する場合のメリット・デメリット
自らの手で商標調査を行うことで、弁理士に支払う費用を削減することが可能です。
メリットとして、調査コストを削減できること、自社内で情報管理をクローズできることが挙げられます。
一方、デメリットとして、商標の専門知識・経験が不足している場合、適切な調査が行えず、上記したように、長期的な視点での損失が発生するリスクが上がります。
オンライン出願サービスを使う場合のメリット・デメリット
近年増えているオンライン商標出願サービスを利用することで、調査コストを削減することが可能です。
一部のサービスでは、AIを活用した商標検索も提供しています。メリットは、低コストで手続きが簡便であること。
しかし、デメリットは、一部のサービスでは、機械検索(AI)の限界があること、専門家の介在が表面的になりがちなことがあげられます。
弁理士に依頼する場合のメリット・デメリット
弁理士に商標調査を依頼する場合、専門的な知識・経験を活用できるため、登録の成功率が高まります。
メリットとして、弁理士がクライアントの困っている点や課題なども含めてしっかりヒアリングして進めるので、安心して依頼できること、調査以外の将来のブランド戦略なども含めて専門家のアドバイスを十分に受けられることが挙げられます。
一方、デメリットとしては、弁理士がしっかり介在することによる費用が発生することです。
品質と費用のバランスをとる方法
「商品・サービス」による調整
商標調査の対象にする商品・サービスの範囲に応じて調査費用が変わる場合が多いです。商品・サービスの範囲を調整することで、調査費用は増減することが可能です。
商標登録による権利範囲を広くする観点では、商品・サービスの範囲は広い方がよく、この場合、調査費用は増えます。
一方、商標を使用する商品・サービスを限定して、調査対象の商品・サービスを狭くすることで、調査費用は抑えられます。ただし、先で「あのとき調査して商標出願しておけばよかった」と後悔しないようにすることが必要です。
以上のように、コストとリターンのどちらを重視するかという問題になります。商標によって重要度も異なるかもしれませんので、適切に選択しましょう。
「依頼先」による調整
弁理士事務所の選び方によっても費用は変わります。大手事務所は高品質のサービスを提供する反面、費用も高くなる場合があります。一方、地域の小規模な事務所では、比較的手頃な価格でのサービスが期待できるかもしれません。
いずれにしても、それぞれの事務所の品質や対応など、しっかり確認することが重要です。
「サービス内容」による調整
基本的な商標調査から、調査結果に関する詳細分析やブランド戦略アドバイスを含むサービスまで、提供される内容によって費用は大きく異なります。自社のニーズに合わせて、必要なサービスの範囲を選択することで、無駄なコストを削減することが可能です。
結論
コスパのいい依頼先選びのコツ
商標調査について適切な選択をするには、まず自分(自社)における、その商標の重要度や位置づけ、その商標を登録する目的などを明確にし、それに合わせた調査方法や依頼先を検討する必要があります。
社内での商標の候補を検討する段階では社内で無料の検索システムを用いた商標調査で十分なこともあります。また、弁理士事務所に依頼する場合は、事前相談や費用見積りを取得することで、適切な価格帯やサービス内容の確認ができます。
まとめ
商標登録は、企業のブランド価値や市場での競争力を守るための不可欠であり、そのための商標調査はとても重要なステップです。本記事を通じて、商標調査の費用の概要、商標調査のコストとリターン・リスクの関係性、そのバランスを適切にとる重要性をご理解いただけたことと思います。
短期的なコスト削減だけに捉われず、長期的なビジョンを持って商標調査や商標出願を行うことが、企業の持続的な成長に貢献します。ぜひ自分(自社)にとり適切な選択をしていただければと思います。