商標の調査のやり方(方法)を教えてください
今度発売する新商品のネーミングを検討しています。このネーミングについて商標をとりたいので、商標を調査する場合のやり方(方法)を教えてください。
・自分で商標調査ができれば安く調査できるのでないか。
・社内で担当者に商標の調査をやらせたい。
・検討している商標の候補のすべてを弁理士に調査依頼するのは無駄に思う。
このような場合に活用できる、「自社での商標調査のやり方(方法)」を、弁理士の視点からの実践ガイドとして、解説します。専門的な知識が無くても効果的に商標を調査できる方法です。
商標の検索ツール
特許情報プラットフォーム・J-PlatPat(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)を使います。誰でもID登録もなく無料で使えます。無料の検索ツールの中では最も信頼性が高いものです。
商標調査のステップ
J-PlatPatを用いた商標調査はいくつかのステップを踏んで行う必要があります。これを以下に順番に解説します。
商品・サービスの特定
自社が商標を使う商品・サービスを特定し、それに対応する「類似群コード」を特定します。
これは特許庁が世の中にある商品・サービスごとに定めている英数字5桁のコードのこと。この類似群コードを使って検索します。同じか似たような商標がないかを類似群コードごとに検索するのです。特許庁の審査でも類似群コードが使われます。
例えば、「かばん」の類似群コードは「21C01」、文房具の類似群コードは「25B01」というように、類似群コードが決まっています。
なお、類似群コードを使わない簡易な検索方法もあるのですが、調査漏れしやすいので、あえて解説は省略します。
商品・サービス(類似群コード)の特定にあたり失敗しやすい点がありますので、以下にご紹介します。
①商品・サービスを漏らしてしまう
例えば、調査対象を商品「ヘアシャンプー」にしたとします。このとき、「ヘアシャンプー」とセットで販売されることの多い商品「ヘアリンス」は調査不要なのか検討が必要です。
「ヘアシャンプー」の類似群コードは「04A01」、「ヘアーリンス」は類似群コード「04C01」と、類似群コードが異なるのです。
もし「ヘアーリンス」も必要なのに、それを無視して商標調査すると、「ヘアーアリンス」の他社の商標を見落としますし、特許庁に商標を申請する際にも漏れてしまいます。
その結果、「ヘアシャンプー」に権利がとれても「ヘアーリンス」には権利が無い、ということになるのです。
他社が「ヘアーリンス」に同じような商標をすでに取っている場合、その他社の権利を侵害することになりかねません。
②分類上の商品・サービスの名称が、世の中の名称と違う
特許庁が類似群コードを定めるために整理している商品・サービスの名称が、世の中一般の商品・サービスの名称と感覚的にズレているという問題があります。この感覚のズレで、類似群コードの特定を間違ったり漏れてしまうということが珍しくないのです。
例えば、焼き鳥を飲食店で料理としてだす場合は類似群コード「42B01」(飲食物の提供)ですが、焼き鳥のテイクアウトの場合は類似群コード「32F01」(焼き鳥)と分かれており、「企業向けの美容に関する情報提供」は「35B01」、「消費者への美容に関する助言」は「42C01」に分かれているという具合です。
③将来の事業展開も考慮すべき
現時点の商品・サービスだけでなく、自分(自社)のビジネスの将来の発展も考えて商品・サービス(類似群コード)を特定する必要があります。
特許庁に商標を登録した後に、当初の範囲を超える商品・サービスにも商標を使おうとする場合には、特許庁に追加で商標を申請するしかありません。
そうなると、追加分の商品・サービスについて、商標調査からやり直す必要があり、その分の費用と時間がかかります。また、追加分の商品・サービスについて他人が既に似たような商標について権利をとっている場合は、商標を取れないことになります。
よって、今後の展開がある程度わかっているのであれば、それも最初から調査対象にしておいた方がよいでしょう。
商標の特定
調査対象にする商標を特定します。現実に事業でどのような場面で、どのように表示していくのかをしっかりイメージします。以下に商標の特定にあたり失敗しやすい点がありますので、ご紹介します。
①現実に使用する商標は何か?
ネーミングに使う商標と一口に言っても、明朝体やゴシック体など標準的な文字なのか、特殊なフォントを使った文字なのか、もっと強くデザイン化した文字なのかなどです。
特許庁で登録された商標であっても使用していない商標については、他人が取り消しできる制度があります。この制度では、特許庁に登録された商標と同じ商標を使用していないと取り消されます。似ている商標では足りないのです。例えば、登録した商標が漢字の文字で、現実に使用した商標がローマ字の場合、取消になる可能性が高くなります。
よって、現実に使用する予定の商標を特許庁に申請する必要があり、そのためには、商標調査でも現実に使用する商標を対象にする必要があるのです。
②商標の「読み方」は?
商標は「見た目」「読み方」「意味」の3つで把握するというルールがあります。この中でも、ネーミングについては「読み方」が重要です。幾つかの読み方がある場合は、それら全ての読み方を対象にして調査する必要があります。特にネーミングの一部を分離して読めるような場合もありますので、注意が必要です。
③商標の特徴(識別力)があるか?
特許庁の審査を通過するには、商標にどの程度の特徴(識別力)があるかが問われます。審査で特徴(識別力)が無いと商標の権利をとれません。これは商標と商品・サービスとの関係で決まります。
特徴(識別力)の無い典型例として、商品の普通名称をそのまま商標とするケースがあります。
例えば、商標「いちご」を商品「いちご」に使うために特許庁に申請しても審査を通過できません。
これは、商標「いちご」を商品「いちご」に表示しても、どの会社の商品か区別できず商標のブランド機能が生じないからです。また、商品「いちご」の事業に関わる者は誰でも「いちご」という言葉を使う必要があるからです。
商標「いちご」を商品「自動車」に使う場合であれば、上記の不都合が生じないため、他の条件を満たせば、特許庁の審査を通過できます。
明らかに特徴(識別力)が無いという典型的なケースは幾つかありますが、それに該当するものは最初から諦めた方がよいでしょう。
商標の検索
以上で特定した、商品・サービス(類似群コード)、商標を使って検索を行います。詳しくは下の仮想事例のところで説明します。
検索結果の検討
商標の検索で見つけた同じか似たような商標に対して、自分が取りたい商標が特許庁の審査を通過できそうかを判断します。これも下の仮想事例で詳しく説明します。
商標調査の仮想事例
それでは、あくまで仮想事例ですが、架空の商標「MULストーム」を商品「手帳」に使うことを想定して、商標調査をしてみましょう。
商品・サービス(類似群コード)の特定
J-PlatPatの「商標」の「商品・役務名検索」を使います。
「商品・役務名」に、商品名「手帳」を入力して「検索」ボタンを押します。
すると、検索結果の一覧から、「手帳」の類似群コードが「25B01」であることがわかります。
商標の把握
商標「MULストーム」を「見た目」「読み方」「意味」の3つで把握します。
ネーミングについては「読み方」が重要です。商標「MULストーム」の「読み方」としては、「ムルストーム」だけでなく「エムユウエルストーム」もあり、ローマ字+カタカナの構成でそれぞれ分離して読まれる可能性もあるので、「ムル」「エムユウエル」「ストーム」の読み方もありえます。
「見た目」は「MUL」(ローマ字)+「ストーム」(カタカナ)、「意味」は「MUL」が特定の意味の無い造語+「ストーム」が嵐・暴風、と把握できます。
商標の検索
次に、J-PlatPatの「商標」の「商標検索」を使います。
- 検索画面の「称呼(単純文字列検索)」に、商標の一つの読み方である「ムルストーム」を入力します。
- 検索画面の「類似群コード」に、「手帳」の類似群コード「25B01」を入力します。
これで検索ボタンを押します。
検索画面の「称呼(単純文字列検索)」には、「エムユウエルストーム」「ムル」「エムユウエル」「ストーム」のそれぞれでも同じ類似群コード「25B01」で検索します。
また、検索画面の「称呼(類似検索)」にも同様にして、「ムルストーム」「エムユウエルストーム」「ムル」「エムユウエル」「ストーム」を入力して同じ類似群コード「25B01」で検索します。
この「称呼(類似検索)」では、商標が似ている場合の音のルールでもって機械検索できます。ただし、機械検索なので特許庁の審査と同じというわけではありません。実質的に似ていないものも数多く含まれますし、漏れが生じることもゼロではありません。
検索画面の商標(検索用)には、「見た目」の観点で、「MULストーム」「MUL」「ストーム」のそれぞれでも類似群コード「25B01」で検索します。また、「意味」の観点で、「嵐」「暴風」についても同様に検索します。
検索結果の検討
以上の検索では、何れも検索条件に該当する商標の一覧が、次のような項目で表示されます。
この一覧の中の、「商標見本」「商標(検索用)」「称呼(参考情報)」を見て似てそうなものをピックアップします。
商標「MULストーム」とまったく同じものがあった場合は、商標を特許庁に申請しても、商標の権利をとれないので、諦めた方がよいでしょう。
ここで注意していただきたいのは、似たようなものについては、全て特許庁の審査を通過できないわけでもない、ということです。
この判断は、グレーなものが多く、専門家でも見解がわかれることがあるくらい、とても難しいものです。少しでも似てそうだなと思ったものは、自分で判断せずに、弁理士に意見を聞いた方がよいでしょう。
まとめ
ポイント
商品・サービスのネーミングについては、しっかり商標調査を行うことが、特許庁への申請のやり直し等にならず、後々の費用がかからない為にも必須です。J-PlatPatでの商標調査は無料ですし、調査のコツを掴めばある程度までの調査が可能です。
一方、商標に関する調査やその結果の判断は商標の専門知識・経験が必要であるため、自分の判断のみで特許庁に申請したり商標の使用を開始することは避けた方が賢明です。
上手な使い分け
ではどうすれば、効率的にかつ費用もかからずにネーミングの商標をとれるでしょうか。
ネーミングの検討ではたくさんの候補が生まれるはずです。次に、この候補を絞りこむことが必要ですが、この際に、自分(自社)でJ-PlatPatの商標調査を使うことが効果的です。明らかにダメなものを落とすだけでも効果的に絞り込みができるはずです。弁理士に調査依頼する案件を厳選でき、無駄な費用を抑えられます。
その後、ネーミング候補を弁理士に商標調査を依頼することをお勧めします。クライアントからしっかりヒアリングする事務所に依頼されることで、確実に商標の権利をとることが可能になり安心できます。
このような使い分けがお勧めです。ネーミング検討から登録までのトータルコストを抑えつつ強いブランド構築が可能となります。