新規事業で言葉がずれる時に作るブランドステートメントの原案


新規事業の説明を始めると、社長、営業担当、開発担当、制作会社で言葉が少しずつずれることがあります。
- 営業資料では「高品質」と書くが、Webでは「安心」と書いている
- 社員によって、誰に向けた商品なのかの説明が違う
- 商品名やキャッチコピーを先に決めたのに、事業の約束が曖昧なまま残っている
結論から言えば、この状態で先にロゴ、広告、Webサイトを作り込むと、後から直す範囲が広がります。まず作るべきものは、きれいな理念文ではなく、誰に、何を、なぜ自社が約束できるのかを一枚にしたブランド・ステートメントの原案です。
1.言葉がずれる理由
(1)良い言葉を探す前に、使う場面が決まっていない
ブランドの言葉がずれる大きな理由の一つは、言葉そのものの巧さではありません。その言葉を、営業、採用、商品説明、展示会、Web、契約前の説明のどこで使うのかが決まっていないことです。
例えば、営業資料では「早い対応」を強調し、採用ページでは「丁寧なものづくり」を強調し、Webサイトでは「地域密着」を強調しているとします。どれも嘘ではありません。しかし、顧客から見て一つの会社としてどう覚えればよいのかが分かりにくくなります。
ブランド・ステートメントは、表現を統一するための飾りではありません。社内外の接点で、どの価値を優先して伝えるかを決めるための原案です。
(2)ブランドコンセプトと言い換え文が混ざっている
ここでいうブランドコンセプト=ブランド・アイデンティティは、事業や商品が顧客にどう認識されたいかを示す軸です。一方で、キャッチコピーや広告文は、その軸を特定の場面で伝えるための言い換えです。
この二つを混ぜると、耳触りのよい言葉はできても、商品設計や営業判断に戻せません。ブランド・ステートメントでは、最初から「社員が顧客にどう振る舞えばよいか」まで想像できる言葉にします。奇をてらうより、現場で使えることを優先します。
2.原案に入れる五つの項目
(1)Who、What、Whyを先に書く
最初に書くのは、Who、What、Whyです。英語のまま覚える必要はありません。誰に、何を、なぜ他社ではなく自社が届けるのかを、経営者の言葉で短く書きます。
- ① Who:最初に深く助けたい顧客は誰か
- ② What:その顧客に起きる変化は何か
- ③ Why:なぜ自社がそれを言えるのか
ここで大きな市場を取りに行く必要はありません。新規事業の初期は、広く知られることよりも、最初の顧客に「これは自分のための話だ」と受け取ってもらうことが先です。
(2)根拠と使わない表現も入れる
ブランド・ステートメントの原案には、約束する価値だけでなく、その根拠も入れます。過去の実績、技術、顧客の声、対応体制、試験結果、創業者の経験など、言い切れる理由を並べます。
同時に、使わない表現も決めます。「絶対」「必ず」「業界最高」「どこよりも安い」のような言葉は、根拠が弱いまま使うと後で説明に困ります。一般消費者向けの商品やサービスでは、景品表示法第5条の不当表示に注意し、魅力と根拠をセットで扱う必要があります。
3.一枚の原案を現場で使う
(1)営業資料とWebの説明をそろえる
ブランド・ステートメントの原案ができたら、まず営業資料とWebサイトを見比べます。顧客の困りごと、選ばれる理由、商品名、相談後に得られる変化が同じ方向を向いているかを確認します。
営業担当が商談で話す言葉と、Webサイトの見出しが大きく違うと、問い合わせ後の期待値がずれます。反対に、原案の言葉が営業資料、Web、展示会トークに通っていると、顧客は同じ会社として覚えやすくなります。
(2)商品設計と採用にも戻す
ブランド・ステートメントは、広告文だけのために作るものではありません。商品仕様、価格、保証、納期、サポート、採用メッセージにも戻します。
例えば「初めて導入する会社が迷わず使える」を約束するなら、商品説明書、導入サポート、問い合わせ対応まで変わります。「挑戦する製造業の試作を支える」を約束するなら、試作相談の受付方法や秘密情報の扱いまで含めて設計します。
攻めのブランディングは、顧客に覚えてもらう言葉を作ることです。そこに守りの視点を加えると、外へ出してよい表現、守るべき名称、秘匿すべきノウハウも同じ紙で確認できます。
4.外に出す前に見る守り
(1)名称候補は早めに商標を確認する
ブランド・ステートメントを作る途中で、商品名、サービス名、タグラインの候補が出ることがあります。候補名をWebや展示会で使い始める前に、商標の確認をしておきます。
商標法第8条第1項には先願の考え方があり、同一又は類似の商品・役務について同一又は類似の商標登録出願が異なる日に複数あった場合、最先の出願人だけが商標登録を受けられます。また、出願日前の出願に係る他人の登録商標と同一又は類似で、指定商品・指定役務も同一又は類似する場合は、商標法第4条第1項第11号の問題になります。
入口確認には、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)が運営する特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」を使えます。ただし、類似判断や指定商品・指定役務の整理は専門判断が必要です。重要な名称は、公開前に弁理士へ確認するのが安全です。
(2)外注制作物の使い方を契約で確認する
ブランド・ステートメントをもとに、デザイナーやライターへロゴマーク、Web、写真、動画、営業資料を依頼することもあります。このとき、納品物をどこまで使えるのか、改変できるのか、二次利用できるのかを契約で確認します。
「一度作ってもらったから自由に使える」と考えると、後で別媒体への展開や修正で止まることがあります。著作権譲渡または利用許諾、二次利用、改変、著作者人格権に関する取り扱い、実績掲載の可否を最初に決めておくと、ブランドの一貫性を保ちやすくなります。
5.原案を見直すタイミング
(1)反応が返ったら、言葉を磨く
ブランド・ステートメントは一度で完成させるものではありません。初回商談、展示会、問い合わせ、採用面談、顧客の声を受けて、言葉を磨いていきます。
ただし、毎回まったく別の言葉に変えると、ブランドは育ちません。変えるのは表現であり、守るのは「誰に、何を、なぜ自社が約束するのか」という軸です。反応が弱い場合は、軸を捨てる前に、顧客の言葉に近い表現へ直します。
(2)名前と表示は変更前にも確認する
表現を磨く過程で、新しい商品名、サービス名、キャッチコピー、比較表、実績表示を追加することがあります。そのたびに、商標、表示根拠、制作物の利用範囲を確認します。
ブランドを育てる作業は、攻めだけでも守りだけでも続きません。顧客に届く言葉を磨きながら、その言葉を安心して使い続けられる状態にすることが必要です。
まとめ
新規事業で言葉がずれる時は、先に広告やデザインを増やすより、ブランド・ステートメントの原案を作ることから始めます。そこには、Who、What、Why、根拠、使わない表現、外へ出す前の確認事項を入れます。
この一枚があると、営業資料、Web、商品設計、採用、外注制作の判断が同じ方向を向きやすくなります。攻めは、顧客に覚えてもらう約束を明確にすること。守りは、名称、表示、制作物の権利を公開前に確認することです。
プロソラでは、ブランディングと知的財産の両面から、新規事業の言葉を現場で使える形へ整える支援をしています。まずは、社内で言葉がずれている箇所を一つ選び、ブランド・ステートメントの原案へ戻してみてください。
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