ブランド棚卸しは何を見る?中小企業が顧客認識を確かめる視点


ブランド棚卸しをしようとするとき、経営者は「もっと発信したほうがよいのか」「ロゴマークやサイトを直すべきか」と考えがちです。ただ、その前に見たいのは、いま顧客の頭の中にどんな印象が残っているかです。
- 既存顧客が、自社を何の会社として覚えているのか分からない
- 営業資料、Webサイト、展示会で伝えている言葉がばらばらになっている
- 新しい事業名やサービス名を外へ出す前に、どこまで整えればよいか迷う
ブランド棚卸しは、見た目を一気に変える作業ではありません。顧客の認識、社内で使っている言葉、外へ出している表示、守るべき名前やノウハウを並べて、次に直す場所を決める作業です。
1.ブランド棚卸しは現状の認識を集めることから始める
ブランドというと、ロゴマーク、色、パンフレット、Webサイトのデザインを思い浮かべる方が多いかもしれません。もちろん見た目も大切ですが、中小企業の実務では、まず「お客様がどう覚えているか」を確かめることが先です。
たとえば自社では「技術提案に強い会社」と考えていても、顧客は「短納期で困ったときに頼める会社」と覚えているかもしれません。自社では「高品質」を前面に出していても、顧客は「担当者が相談しやすいこと」を評価しているかもしれません。このずれを知らないまま発信を増やすと、強みを外してしまいます。
(1)顧客の言葉をそのまま拾う
棚卸しでは、まず既存顧客から実際に言われた言葉を集めます。「助かった」「他社より早かった」「細かい相談ができた」「不良が減った」など、営業日報やメールに残っている表現で構いません。きれいなキャッチコピーに直す前の、顧客の生の言葉が材料になります。
(2)社内の自己評価と分けて見る
社内で信じている強みと、顧客が感じている強みは同じとは限りません。自己評価を否定する必要はありませんが、混ぜてしまうと判断がぼやけます。棚卸し表では「社内が言いたいこと」と「顧客が言っていること」を別の列に置きます。
2.接点ごとの言葉と見え方を確認する
顧客の認識を集めたら、次は外に出ている接点を確認します。Webサイト、会社案内、提案書、展示会パネル、名刺、採用ページ、SNS、見積書の肩書きなど、意外な場所で会社の印象は作られます。
ここで見るのは、デザインの好みではありません。同じ会社なのに、ある接点では「高品質」、別の接点では「低価格」、別の資料では「何でもできます」と見えていないかを確認します。言葉が散らばっていると、顧客の頭の中に指定席ができません。
(1)入口ごとに期待が違う
展示会で初めて会う人、既存顧客から紹介された人、検索でWebサイトに来た人では、知りたいことが違います。すべての接点で同じ文章を置く必要はありません。ただし、最後に残したい印象はそろえる必要があります。
(2)強みを足しすぎない
棚卸しをすると「あれも強み、これも実績」と足したくなります。しかし、顧客が一度に覚えられることは限られています。最初に見せる強みは、顧客が困ったときに思い出してほしい一つに絞り、詳細は提案書や事例で補います。
3.理想のブランド像とのずれを一枚にする
ブランド棚卸しの目的は、現状を責めることではありません。現状の認識と、これから取りたい位置の差を見えるようにすることです。新規事業なら「今は受託の会社として見られているが、今後は特定用途の課題解決で思い出されたい」という差が出ます。
この差を一枚にすると、優先順位が決めやすくなります。Webサイトを先に直すのか、営業資料の導入ページを変えるのか、商品名を整理するのか、展示会での説明を変えるのか。何となく全部直すより、顧客の認識に効く順番で進められます。
(1)残したい印象を一文にする
棚卸しの途中で、社内用の一文を作ります。たとえば「小ロット試作で困ったとき、最初に相談される会社」「食品工場の省人化で、現場の条件まで見て提案する会社」のように、顧客の困りごとと自社の役割を入れます。
(2)変えないものも決める
ブランド改善というと、すべてを刷新する話になりがちです。しかし、既存顧客が信頼している言葉や見た目まで急に変えると、かえって混乱します。棚卸しでは「変えるもの」と同じくらい、「残すもの」を決めることが大切です。
4.名前や表示は外へ出す前に守れるかを見る
顧客の認識と接点を整理すると、事業名、商品名、サービス名、ロゴマーク、キャッチコピーの候補が出てきます。ここからが、攻め(ブランディング)と守り(知財)を同時に見る場面です。
攻めでは、顧客が困ったときに思い出しやすい名前や表示を選びます。守りでは、同じ名前や似た表示が先に使われていないか、公開前に確認します。商標は先に特許庁に申請した者に権利を付与されるため、「先に使い始めたから安心」とは言い切れません。
(1)説明しすぎる名前は守りにくいことがある
「短納期試作サービス」のように役務内容をそのまま説明するだけの名称は、意味は伝わりやすい一方で、商標登録に必要な識別力が無いという問題があることがあります。反対に、造語だけにすると伝わりにくい場合もあります。棚卸しで顧客の言葉を確認しておくと、伝える力と守る力の釣り合いを探しやすくなります。
(2)先行商標との抵触を早めに確認する
候補名が決まったら、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)が運営する特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」で早めに確認します。先に登録された商標と似ていると、商標登録できません。似ている似ていないの判断は極めて難しいため、重要な名前は専門家である弁理士に確認します。
(3)技術やデザインは公開順序に注意する
新しい事業では、展示会、Webサイト、SNS、クラウドファンディングで先に発表したくなることがあります。ただし、特許や意匠の権利取得の為には公開前に特許庁に申請する必要があります。よって、技術・デザインは、公開前の確認が重要です。ブランド棚卸しの段階で、名前だけでなく、外へ出す技術やデザインも一緒に確認します。
5.棚卸し結果を次の小さな改善に落とす
棚卸しをしても、そこで止まると資料作りで終わります。大切なのは、次の一手を小さく決めることです。たとえば、トップページの冒頭文を直す、営業資料の1ページ目を顧客課題起点にする、展示会の説明を一文にそろえる、サービス名の候補を整理して商標確認に進める、といった単位です。
いきなり全面リニューアルをしなくても、顧客の認識とずれている接点から直し始めるだけで、伝わり方は変わります。逆に、棚卸しをせずにデザインだけ変えると、見た目は新しくなっても、何の会社として覚えてほしいのかが残りません。
(1)一か月で直すものを三つに絞る
棚卸し後は、改善項目を三つ程度に絞ります。短期で直す接点、中期で整理する名前や表示、専門家に確認する知財項目に分けると進めやすくなります。全部を同時に進めるより、顧客の頭の中に残る印象から逆算します。
(2)記録を残して次回の基準にする
ブランド棚卸しは一度で終わるものではありません。新規事業の顧客層が変わる、商品が増える、採用や展示会の接点が増えるたびに、認識は変化します。今回見た顧客の言葉、接点のずれ、守るべき名前や表示を残しておけば、次回の改善判断が速くなります。
6.顧客の頭の中と公開前の確認を同じ表で見る
ブランド棚卸しは、華やかな発表のためだけの作業ではありません。顧客の頭の中にどんな指定席を取りたいのかを決め、その指定席に使う名前、表示、技術、デザインを外へ出す前に確認する作業です。
中小企業の新規事業では、発信量を増やす前に、まず現状の認識を集めることが効きます。顧客がすでに評価している言葉を拾い、社内が言いたいことと分け、接点ごとのずれを直す。そこに名前や表示の知財確認を重ねることで、伝わるだけでなく、長く使えるブランドに近づきます。
プロソラでは、ブランド棚卸し、顧客認識の整理、ネーミング・商標確認、公開前の知財確認を一体で見ながら、新規事業の発信と保護の順番を支援しています。
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