共同開発契約書のポイント解説:成功への道を拓くために
1.共同開発契約書とは?
(1)目的と重要性
①共同開発契約書の目的
共同開発契約書は、二者以上の企業や機関等が技術や製品・サービスを共同で開発する際に、これら当事者が各自の役割・責任、成果・利益の配分などを共同開発前に明確に定めておくことによって、共同開発中や共同開発後における問題や紛争の発生を未然防止するために締結します。この共同開発契約書が共同開発をスムーズに進行させて成功に導く為のフレームワークを提供することとなります。
②契約書の重要性
契約書は、共同開発の過程で生じうる当事者間の誤解や紛争を防ぎ、各当事者の権利と義務を保護するために不可欠です。明確な契約書があることで、プロジェクトの目標に向けた効率的な進行が可能となり、各当事者のリスク管理も容易になります。
③契約書の法的な役割
共同開発契約書は、法的に拘束力のある文書であり、契約違反が生じた場合には法的な解決策や補償を求めるための根拠となります。これにより、共同開発の実行の確実性が保たれ、信頼関係の構築にも寄与します。
(2)共同開発契約書の作成タイミングと共同開発に関連するフェーズ
①共同開発開始前の事前検討フェーズ
共同開発契約を行う前には一般的に、共同開発を行うか否かを当事者が事前検討を行って、その事前検討中において、共同開発での各当事者の役割・責任や共同開発に期待する成果等を相互に擦り合わせていきます。これらを取りまとめて、共同開発の開始前に共同開発契約書を締結します。
このフェーズでは、より深く事前検討を行うために、当事者が自らの秘密情報を相手方に開示する場合があります。この場合には、秘密情報の受領側当事者により秘密情報が漏洩することや目的外に利用されることを防止する為に「秘密保持契約書」を締結します。
②共同開発の遂行フェーズ
共同開発の遂行段階では、具体的な技術開発や製品・サービス検討における各課題に対処しながら各当事者が自ら実施すべき開発・検討を遂行していきます。また、共同開発の途中には必要に応じて当事者が相互の情報交換等を行っていきます。これらによって、共同開発の目的とする成果の創出を図ることとなります。
この際、共同開発契約書での取り決め内容に基づいて各当事者が自らの義務を履行するように共同開発業務を遂行していきます。
なお、共同開発を遂行していく中では当初意図しなかったような新たな課題が生じることも少なく無く、共同開発の内容や期間・費用分担等の変更の必要が生じる場合があります。この場合に当事者がどのような手順や手続で対応するのかを予め決めておくのが望ましいといえます。
③共同開発終了後の成果利用フェーズ
共同開発の終了後には、開発された技術の利用や、製品・サービスの上市化を行います。この成果利用フェーズに入る前に(共同開発の終了時点で)、共同開発の成果を具体的に各当事者がどのように利用するのかを相互に擦り合わせて合意します。この合意は、共同開発成果利用契約書に取り纏めて契約締結することになります。
2.共同開発契約書の主なポイント
(1)各当事者の役割・責任の明確化
共同開発は各当事者が保有するリソース(技術・解決手段等)を持ち寄り共同で技術や製品・サービスを開発する活動であるため、各当事者がどのような役割を担いどのような責務を負うのかを明確にしていくことが共同開発の成否に大きく影響します。よって、各当事者の役割・責務を明確化することが重要です。
(2)共同開発成果の帰属・利用の明確な合意
各当事者が共同開発に参画するのは、共同開発により自社の意図する成果を得て、その成果を事業に利用することによって収益を上げることが目的です。よって、最終的に自社の事業において共同開発成果を自社の目論見どおり利用できなければ、自社の事業化が阻害されてしまい、共同開発への参画が失敗に終わってしまいます。
その為、共同開発で生じる各成果がどちらの当事者に帰属するのか、また、その成果をどちらの当事者がどのように利用できるのかを共同開発前に明確に合意しておくことが重要です。
もっとも詳細なことは共同開発をやってみないとわからない(共同開発終了時でないとわからない)こともありますので、共同開発契約では成果利用の基本思想・基本事項を定めておくにとどまる場合もありえます。
なお、共同開発成果を利用する際に、各当事者が共同開発前に保有する知的財産や共同開発とは別の開発(単独開発等)で生じる「相手方の知的財産」を利用する必要が生じる場合もあります。この場合は保有側の当事者が利用側の当事者に実施許諾するのかどうか、実施許諾する場合の条件(基本的なもの)についても予め合意しておくことが望ましいといえます。
(3)想定外事象が発生した際の対処に関する合意
上述のとおり、共同開発を遂行していく中では当初意図しなかったような新たな課題が生じることは少なくありません。この場合、当事者間でどのように解決を図っていくのかその手順や手続を予め合意しておくことは、当事者間の誤解や紛争の発生防止の為に重要です。
場合によっては、当事者が相互に協議を行って共同開発契約の内容を一部修正するように内容変更の覚書を締結することもあり得ます。
3.共同開発契約書の主な条項
共同開発契約書は多くの条項を記載することになり、知的財産関連契約の中でも比較的分量の多い契約書となります。また、夫々の条項で検討すべきポイントも多くあります。以下に共同開発契約書の主な条項について解説します。
(1)前文・目的
前文は、契約書の冒頭にあって、契約当事者の名称、共同開発を行う旨を記載するものです。この前文の中に、共同開発の目的を記載する場合もあり、別途「目的」の条項を設けて共同開発の目的を記載する場合もあります。目的の内容が長くなる場合は、ごく簡単に前文に記載した上で、目的の条項に詳しく記載することが多くあります。
「目的」は共同開発自体や共同開発契約の外縁(スコープ)を定めるものであり、契約書の多くの条項においては「本目的の過程で」「本目的に関し」「本目的に限り」などと規定することから、契約書の全体に影響する大変重要なものとなります。
よって、共同開発の実体内容にフィットするように「目的」を表現する必要があります。それを抽象的に漠然と表現してしまうと共同開発の実体内容よりも広いスコープ設定となってしまいますし、逆に微細に記載すると共同開発の実体内容よりも狭いスコープ設定になってしまいます。どちらの場合も、各条項の解釈において自社に不利になるというリスクが生じることになります。
なお、前文には、共同開発の開始状況を明確にするため、共同開発に至った当事者の経緯や、共同開発前に締結した秘密保持契約等との関連を記載することも多くあります。
(2)用語の定義
契約書に多く登場する概念を簡潔な文言で定義しておくことにより、契約書全体の記載を簡潔且つ読みやすくする為に、用語の定義を設けます。その為、契約書の最初の方に、定義の条項を設けます。共同開発契約書では一般に定義しておくべき用語が多いことも定義の条項を設ける理由となります。
また、定義の条項は、当事者相での契約書の交渉を通じて用語の意味内容を明確にしていくこともできますので、当事者間での用語の解釈の疑義を無くして誤解や紛争を生じないようにするという意義もあります。
このように、定義の条項を上手く活用することによって、契約書全体を完結且つ読みやすいものにすることができるとともに、共同開発での誤解や紛争を生じないようにすることができることとなります。
(3)共同開発内容、役割分担
共同契約書には、当事者間で協議して、共同開発で実施する具体的な内容と、その内容をどちらの当事者が実施するのかという役割分担を定めます。
役割分担は、夫々の当事者が行うべき責務(契約上の義務)を定めることになります。これは各当事者が提供する自己のリソース(得意な技術等)を前提としながら、双方の業務分担のバランスなども考慮して決めてゆきます。
開発費用の分担も重要な問題となります。開発費用の総額を折半したり、自己の開発費用を自己負担とするなどがあります。また自己の開発に関わる人件費の負担も取り決めの対象となりえますが、自己負担とする場合が比較的多いように思われます。当事者間の分担金の差額が大きい場合は、その差額を相手方に支払うような措置を行う場合もあります。
共同開発の期間を定めることも重要です。共同開発は始めてみないと上手くいくかどうかわからない点もありますので、当事者間の協議によって期間を短縮・延長する規定を予備的に設けることも比較的多いといえます。
更に、共同開発といえども各当事者が自社で開発業務を行うのが一般的ですので、各当事者の開発業務の進捗について相互に情報交換する場(情報交換会)を設けることも、共同開発の進捗把握や課題共有の為に重要となります。よって、情報交換会の開催の規定を設けることも望ましいといえます。
このように、各当事者の具体的な役割・責任を契約書で明確にすることで、共同開発のスムーズな運営が担保されることになります。
(4)報告書の作成
共同開発の成果を特定することは、共同開発後の共同開発成果利用契約を締結する際に、成果利用を具体的に取り決める為の基礎資料として重要になります。よって、共同開発の成果を明確にしてその情報を当事者間で共有する目的で、報告書作成の条項を設けます。
この条項には、報告書作成の時期(共同開発修了時か共同開発期間中の一定期間毎か)、報告書の作成者(どちらの当事者が作成するか、それとも共同作成するか)を規定することが多いといえます。
(5)成果の帰属
共同開発により得られる「成果」がどちらの当事者に帰属するか又は当事者の共有とするかを規定する条項です。帰属先を決定するための考え方や具体的な決定方法などを規定します。
共同開発の過程では、発明・意匠・ノウハウ・データ・著作物(ソフトウェア・資料)など知的財産(情報成果物)が取得され、またサンプル品が製作されるなど、種々の成果が生じます。これら成果が何れの当事者に帰属するかは、各当事者の事業化に直接的な影響を生じることから、共同開発契約における重要事項の一つといえます。
①帰属決定の方法について
成果帰属の決定方法には幾つかのパターンがあります。主なものを以下に示します。なお、当事者相互の関係性や各当事者の立場などに応じて取りうるケースが異なることになります。
(ⅰ)全て共有とするケース
共同開発を行ってそのまま事業化までを共同実施する場合には、全て共有とするケースが比較的多くあります。事業化までを共同実施するということは各当事者の単独帰属を認める必要性が低下するからです。また、このケースでは、結構厄介となる、各成果の単独・共有の帰属交渉を行わなくて済むという利点があります。
(ⅱ)成果を生んだ従業員が所属する企業・機関に帰属させるケース
一方当事者に所属する従業員のみにより生じた成果はその当事者(企業・機関)に単独に帰属させて、両方の当事者に所属する従業員が相互に共同して生じた成果は両方の当事者の共有にするというものです。
考え方としては合理的といえます。ただし、具体的な詳細検討を行う側の一方当事者に成果が生じやすいため、他方当事者には不利になる傾向があります。
(ⅲ)相手方の秘密情報を含む場合に共有、含まない場合に単独帰属とするケース
一方当事者が開示した秘密情報を含む成果を他方当事者が生じさせた場合は共有とし、一方当事者が開示した秘密情報を含まない成果を他方当事者が生じさせた場合は他方当事者の単独に帰属させるというものです。
生じた成果に相手方の秘密情報を含むか含まないかが区分点となります。よって、上記(ⅱ)の成果を生む貢献よりは軽度といえる秘密情報の混入が有れば共有となることから、(ⅱ)よりも共有の傾向が強くなるといえます。
②成果の通知について
上記の帰属については、成果発生の事実を相手方に通知するかどうかも重要な要素となります。各当事者が自社で開発業務を行うことが多く一方の当事者に開発成果が生じても他方の当事者は知りえないことから、成果発生の事実を相手方に通知することが合理的ともいえます。この通知の要否やタイミングが重要な要素となります。
(ⅰ)通知した上で帰属決定を行うケース
相手方に通知した上で、両当事者が確認・検討して帰属を決定するため、後で誤解や紛争が生じにくいものとなります。一般に多くのケースで採用されます。一方、通知や確認・検討の時間が必要であるため、帰属決定に時間を要するというデメリットもあります。
(ⅱ)自己判断で自己帰属に決定でき特許出願等した上で通知するケース
帰属ルールを予め決めておき、ルール上で自己に帰属する成果を生じた際には自己判断で自己帰属と決定して、特許出願等の必要な措置を行った上で相手方にその事実を通知するものです。帰属決定の時間を要することなく必要な措置を行えるというメリットがあります。ただし、後で相手方に疑義を生じた場合には厄介な交渉になるというデメリットもあります。
このケースでは、相手方の貢献や秘密情報を徹底的に排除した内容にして特許出願等の必要な措置ができることになるため、共有化を避けて自己の単独帰属を増やしやすく、結果的に単独帰属が増える(共有が減る)傾向となります。
(ⅲ)何も通知せずに相手方に疑義が生じた場合に協議するケース
帰属ルールを予め決めておき、ルール上で自己に帰属する成果を生じた際には自己判断で自己帰属と決定して、特許出願等を行うという点は上記(ⅱ)と同じです。よって、単独帰属が増える(共有が減る)傾向となります。
しかし、このケースでは、相手方への通知は行いません。出願公開等により特許出願等の事実を相手方が発見して疑義が生じた場合には当事者間で協議するというものです。特許出願等の必要な措置を行うまでに最も手間のかからない方法ですが、相手方に疑義が生じた場合には上記(ⅱ)と同じく厄介な交渉になるばかりか、成果創出時から時間が経過しており立証資料が入手しにくくなっているというデメリットもあります。
(6)特許出願
共同開発で生じる成果として重要なものに発明や意匠があります。これらは特許庁への出願等の必要な手続を行って初めて権利化されるものです。両当事者の共有となる場合には、当事者間において出願等の手続に関する役割や費用分担などを定める必要があります。
一般的には、一方の当事者が特許庁への手続を行い、それに他方の当事者が協力することとし、費用は分担する(折半や出資比率での分担など)ことが多いといえます。
ただし、発明や意匠の内容によって当事者の対応が変わる可能性がある場合は、共同開発では別途協議するとのみ規定しておき、実際にそれらが生まれた時点で取り扱い協議して別途、共同出願契約を締結することもありえます。
なお、外国出願については国内出願に比べて費用が高額になるため、国内出願とは別の取り扱いを望む場合には、その内容を取り決めておく必要があります。
(7)成果の利用
成果の利用に関する条項は、どの当事者がどのような条件で成果を利用できるかを定めるものです。当事者の事業に直接的に影響するため、成果の帰属の条項とともに、共同開発契約における最重要なものといえます。
成果利用の詳細な内容は共同開発後の共同成果利用契約書に定めることになります。しかし、共同開発終了後の交渉では、利害関係が明確になって両当事者の目論見がぶつかり合い紛糾し易いといえますので、この共同開発契約において予め成果利用の基本思想・基本事項は合意しておくことが望ましいといえます。
成果利用を各当事者の全く自由にするというのも一つの考え方ではありますが、自己の実施を優位に進めるためには相手方の実施に制限をかける必要があるというのも現実的に多いといえます。
例えば、共同開発のケースとして比較的多いのは、サプライチェーンの上流側の企業と下流側の企業が行う共同開発(垂直型共同開発)です。
このケースでは、上流側企業の立場では、共同開発先である下流側企業だけではなく他の下流側企業にも共同開発成果を用いた製品を販売したい、また共同開発先である下流側企業には、他の上流側企業から似た製品を購入してほしくないと考えます。
逆に、下流側企業の立場では、共同開発先である上流側企業だけではなく他の上流側企業からの共同開発成果を用いた製品に似た製品を購入したい、また共同開発先である上流側企業には、他の下流側企業に共同開発成果を用いた製品を販売してほしくないと考えます。
これは、上流側企業の立場と下流側企業の立場とが真っ向から利害対立する状況といえます。この利害対立をどのように調整するかということが問題となるのです。
この問題解決の為には、両当事者の販売・購入に所定の制限を課すこと(例えば、販売・購入の制限を合理的な理由が成立する期間に限って課すこと)が考えられます。一方で、この制限を課す場合には、独占禁止法上の制約に抵触しないように留意する必要があります。
この販売・購入に所定の制限を課すという方法の他にも、夫々の共同開発のスキームや当事者の立場に応じて種々の利害調整の方法が存在しています。
何れにしても、両当事者の事業を両立できるように上手く合意点を探ることが必要となりますので、最も交渉に難航するものといえます。
なお、この成果の利用は知的財産の種類に応じて法律上の規律が相違する点にも留意が必要です。例えば、特許権が共有となる場合では、相手方との取り決めが無ければ自由に実施できますが、著作権が共有となる場合では、相手方との取り決めが無い限り自由に実施することができません。これらの違いを踏まえて成果利用の条項に反映する必要があるのです。
(8)当事者間の実施許諾
各当事者が共同開発成果を利用して事業を行う場合に、各当事者が共同開発前に保有する知的財産や共同開発とは別の開発(単独開発等)で生じる「相手方の知的財産」を利用する必要が生じる場合もあります。
この場合は保有側の当事者が利用側の当事者に実施許諾するのかどうか、実施許諾する場合の条件(基本的なもの)についても予めこの共同開発契約で合意しておくことが望ましいといえます。
(9)共同開発成果の第三者への実施許諾
両当事者の共有となる共同開発成果について第三者から実施許諾の要請がある場合の取り扱いを定める条項です。
その第三者に実施許諾するのかどうか、実施許諾する場合の条件設定をどうするかについて、予めこの共同開発契約で合意しておくことが望ましいといえます。
(10)改良発明
共同開発の終了後に、共同開発の成果に基づいて改良発明を創作した場合の取り扱いについて規定するものです。
共同開発の成果に基づいて一方の当事者が改良発明を創作してそれが特許権になると、他方の当事者の事業に大きな影響を及ぼす場合があります。加えて、一方の当事者が改良発明を創作しても他方の当事者はそれを知りえないということもいえます。
改良発明の帰属や利用について制限を課したいという場合に一般的には、一方の当事者が改良発明を創作した場合には他方の当事者にその事実を通知することと、改良発明の取り扱いについて何らかの利用の取り決めを合意しておくことが多いといえます。この取り決めに関連して、独占禁止法上の制約があることに留意する必要があります。
(11)権利の保全
両当事者の共有となる共同開発成果である特許権等を第三者が侵害した場合や、その特許権等について第三者から権利化を阻害する行為や権利無効の主張をされた場合に、両当事者がどのように対応するかを取り決める条項です。
一般的には、相互協力することを合意することが多いといえますが、より具体的にどちらの当事者が前面に立って対応するか、費用の分担をどうするか、などについて規定することもあります。
(12)秘密保持
共同開発では一般に、当事者間での秘密情報がやり取りされます。このため、受領側の当事者に対して第三者への漏洩や目的外利用を禁止する規定を設けます。この点は一般的な秘密保持契約書と同様です。
ただし、共同開発では共同開発成果についても通常、秘密保持義務を両当事者が負うようにすることが多いといえます。勝手に第三者に漏洩されてしまうと、例えば、共同開発成果が公知になって価値を失う(例えば、発明が公知になって特許出願できなくなる)ことになるからです。
(13)成果発表
共同開発成果について当事者がニュースリリース等により社外発表したい場合があるのは事業展開として当然ありうることです。上記したように、共同開発成果に秘密保持義務を負う場合には成果発表ができないことになります。よって、秘密保持義務と成果発表の関係を整理して規定しておく必要があるのです。
(14)第三者との同一類似の共同開発の禁止等
共同開発の遂行期間中に、一方当事者が第三者と同一類似の共同開発を行うと、他方当事者の秘密情報が第三者に漏洩したり、両当事者の共同開発の成果と一方当事者と第三者との共同開発の成果が混同(コンタミネーション)して、後々の紛争に発展するリスクが生じます。
よって、共同開発の遂行期間中には、どちらの当事者も第三者との同一類似の共同開発を行うことを禁止して、上記の情報漏洩や混同が生じないようにすることが望ましいといえます。
ただし、この禁止に関連して、独占禁止法の所定の制約があることには留意する必要が有ります。
(15)契約の有効期間
契約の有効期間は一般的には、共同開発期間と一致させる場合が多いといえます。
ただし、共同開発開始前に秘密情報をやり取りしていて秘密保持条項をそのやり取りの開始時点で発効させたい場合などに、有効期間の開始日をそのやり取りの開始時点とすること(遡及発効させること)があります。また、共同開発の終了後の一定期間も秘密保持義務を延長させたい場合などに所定の条項の有効期間を延長して有効とする残存条項を設けることも多いといえます。
(16)一般条項
共同開発契約においても、売買契約等の他の契約と同様に契約書一般に共通する規定が設けられます。
例えば、契約を終了させるための解約の条項、相手方が債務を履行しなかった場合の損害賠償請求の条項、反社会的勢力排除の条項、合意管轄の条項などです。
4.効果的な契約交渉の進め方
(1)交渉前の準備
①交渉の目標の設定
効果的な交渉を行うためには、自社の事業戦略・開発戦略に基づいて、具体的な目標を最初に設定することが重要です。これにより、交渉の焦点を明確にし、望む目標に向けて効率的に交渉を進めることができます。
②相手方の背景調査
相手方の業界状況、過去の交渉履歴、文化的背景などを事前に調査し、その情報を基に戦略を立てます。これは交渉を有利に進めるために不可欠です。
③譲れない点と譲歩できる点を明確化
交渉においては、自分の譲れない点と譲歩できる点を明確にすることが重要です。これにより、相手との協議を有利に進めつつも、相手方との合意点を見つけやすくなります。
(2)合意形成と文書化
①合意点の明確化
交渉の結果として得られた合意点を明確に記述し、双方の理解と同意が得られていることを確認します。これら合意点が契約書の基礎となります。
②契約書のドラフト作成
合意された内容に基づいて、契約書のドラフトを作成します。この段階では相手方の出方も予想しながら、適切に条文を文書化することが、交渉をスムーズに進めることになります。
③最終合意に至るプロセス
相手方との間でドラフトのレビューと修正をやり取りし、契約書について最終的な合意に至るまで慎重にプロセスを進めます。この段階での丁寧な対応が、契約の成功を左右します。
5.共同開発契約書の管理と監視
(1)契約履行の追跡
①進捗管理
共同開発における進捗管理は、契約の履行を保証する為に重要なものです。定期的な進捗報告と評価を通じて、共同開発が契約条件に沿って進行しているかを相互に確認します。
②マイルストーンの評価
共同開発の重要なマイルストーンを設定し、それぞれの達成を評価することで、共同開発の実施状況を具体的に把握します。これにより、共同開発の成果創出に向けた確実な遂行が可能となります。
③情報交換会の実施
定期的な情報交換会を実施することで、両当事者が共同開発の進行状況と成果を共有します。これにより、共同開発の透明性が保たれ、両当事者の協力関係が強化されます。
(2)契約の変更
共同開発の進捗状況や市場変化などに応じて共同開発の内容を変更した方がよい場合は、共同開発契約書の内容を変更することが必要になる場合もあります。契約書に予めこれを予想して変更の手順や手続を定めておくことが得策です。
また、契約内容を変更する必要が生じた場合には、両当事者が協議して契約内容の変更の覚書を締結することになります。
以上、共同開発契約書に関する基本的な考え方や主な条項のポイントなど比較的多くの事項を解説しましたが、これでも基本的な一部の事項にとどまります。実務では、より多くの検討事項や交渉論点が発生し、それに応じた対応策も存在します。
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